人にとって“排泄”という行為は尊厳に係わる大切な習慣です。
自分の足でトイレまで歩き排泄ができる、日頃当たり前にしているこの習慣も、できなくなったときに初めてその行為の尊さを実感します。
郷里の父は脊柱管狭窄症、胸椎圧迫骨折などの既往があり、83歳以降少しずつ歩行が不安定となりました。これまでも看護師や理学療法士による訪問リハビリを定期的に続けてはいたのですが、日常過ごすリビング兼寝室からトイレまでのわずか5メートルの歩行が難しくなってきました。
まずは一歩杖を使い、次に体をホールドする歩行器、そして今では母が手を引きながらトイレまでの歩行を介助しています。
ところが8月末頃からトイレまで歩行ができず立ち上がれなくなってしまい、ケアマネジャーに連絡し緊急の援助を受ける、ということが2回続きました。
本当にありがたいと感謝しつつも、両親は申し訳ない気持ちでいっぱいでいるのがわかります。
オムツや寝たきりになるのは簡単ですが、両親はなるべく自分の力でトイレに行けるよう懸命にがんばっています。
そこで、以前から「こんな方法があるよ」と話していた事ですが、いよいよポータブルトイレの導入を提案しました。日頃父が過ごしているリビングにポータブルトイレを置き、安心できる排泄環境を整えようというわけです。
なんとしてもトイレまでは歩いて行かせたい、その思いは母も私も強かったのですが、福祉用具を味方につけて活用する段階に来ています。
それでも母は微妙な表情。困惑する気持ちもとてもわかります。
母のトイレのイメージは病院でよくみかける冷たいポータブルトイレ。
心穏やかに過ごすリビングに置くのは切ないですよね。
そこでこのような希望を立ててみました。
【父が利用するポータブルトイレの希望】
・ リビング兼寝室においても違和感のない家具調ポータブルトイレ
・ 介助が楽であるように肘掛が跳ね上げ式
・ 長年の排便を促す習慣、介護負担も軽減できるシャワー付
・ 寒がりな父がトイレ使用を嫌がらない為にあたたか便座
この内容を担当のケアマネジャーにまずは私から相談し、意見が一致。
導入の必要性、状態に合っていることを確認しました。
母にはカタログをみせながら機能や効果を説明しました。
さっそく訪れてくださった馴染みの福祉用具事業者さんに母から希望を伝えると、希望どおりの素敵なポータブルトイレが届きました。事業者さんがすべて組み立てて設置までしてくださいました。
10万円以上の高額な商品でしたが、介護保険の手続きを行うことで償還払いとなり、10万円のうちの9割、9万円は後日戻ってきます。家族の負担は1万円とオーバーした分のみです。
手前から引き出すとトイレが現れます。我が家は絨毯なので特に防水シートは必須です。
肘掛も跳ね上げ式で介助がとても楽にできます。
父のお気に入りのソファの隣で仲間入りという感じです。
このポータブルトイレ導入、 私としては母と父の驚きぶりが楽しかったです。
未知の世界のトイレ、思いのほか安心を得られたようです。
無事成功した瞬間には拍手喝采で喜び合いました。
消臭液の効果、色や香りも気に入ったようです。
【父の感想】
快適だね
【母(介護者)の感想】
とにかく全部イイワ!
病院のトイレしかイメージできなかったから、形や臭いに抵抗があったけれど
トイレとはわからないから部屋においても違和感がないし、
温水洗浄シャワーもあって衛生的で操作も簡単。
何よりもトイレに行くまでの距離が近くなったから介護が楽になったわ。
間に合わない、失敗したら、という心配もなくなって大助かり。
何とかしてトイレまで頑張らないと、と思っていたけど
こんな良い方法があるなんて知ってる人はなかなかいないわよ。
訪れる介護スタッフもトイレとは気が付かない様子で「こんな素敵なポータブルトイレ初めてみました!」そんな様子を少しだけ母も楽しんでいるようです。
導入に至るまで係わってくださったケアマネジャーや福祉用具事業者担当者、そして開発してくださっている皆様に感謝しました。
排泄に関する援助をする際に忘れてはいけないことは、排泄を他人に頼らなければならない、これまでどおりにできないという本人の辛い気持ちです。
また、介護で最も辛いのは排泄の介助でもあります。
支えられる人、支える人、両方の立場にさりげなく配慮しながら、タイミングを外さないでやさしい排泄環境を整えたいものです。
さて、利用頻度が減った我が家のトイレは少し寂しそうです。勿論状態が良く歩行が安定しているときには通常のトイレを利用しています。それが生活リハビリです。
皆さんも福祉用具を上手に活用し、生活の質をいつまでも豊かに保ちましょう。
両親の話はひとつの例ですが、もし排泄のことで困ったら、遠慮せずに担当のケアマネジャーに相談してみてください。