接遇のセミナーをお願いしたい。今から7年ほど前にそんなご依頼をいただいたことがありました。えっ、なんで私が?…ケアの仕事に就いている私は接遇のプロではないし、自分自身の接遇さえ整っていません。当然辞退して、差し替えに友人を紹介し逃げました。ごめんなさい、その時の情けない気持ちがずっと心の片隅に残っていました。
しばらく、このテーマからは遠のいていましたが、近年また“コンサルタントとして大切にしていること”や“高齢者とのコミュニケーション”などの講演のご依頼をいただく機会が増え、今回のご依頼は老人保健施設、クリニック、居宅介護支援事業者という現場で働くスタッフの皆さんに“コミュニケーションと接遇”がテーマでした。
時間というのは凄いですね。私は、いつのまにか人と人との関わりという、最も大切にしているテーマを話す準備が整ったのかもしれません。今考えていることや伝えたい思いがあります。セミナー内容は十数年に及ぶ私の抱えてきた悩みや問題、うまくいかなかったことから発見してきたこと、超えてきた方法、大切にしたいことなどがぎゅっと凝縮され、ノウハウとともに私自身を表現することになりました。やりがいを感じる仕事です。
何故、介護や医療の現場に接遇が求められるのでしょうか。それは、専門知識や技術があっても、相手が信頼し心を開かなければ、効果は得られないからです。接遇はコミュニケーションスキルです。一般の接遇をケアの現場にすっぽりとあてはめることはできません。何故でしょう。それは相手が痛みや悲しみを抱えている人だからではないでしょうか。そして、良いコミュニケーションをとるためには知識ではなく、豊かな感性が必要です。心も体もリラックスし、自分自身をみつめる目が必要です。
人に何かを話す、伝える、表現することによって、自分の考えが整理され、またあらたな考えが湧き出てきます。不思議なものでセミナー中、私自身を旅しているかのような気持ちになりました。人と人との関わりから逃げない、過去から繰り返してきた私の七転び八起きが、誰かの元気につながっていきます。
日々、人と人とのかかわりに向き合っている人達のあたたかく真剣な眼差しは、逆に私を勇気づけてくれるかのようなパワーを持っていました。皆さんが日々の仕事で抱えている戸惑いや悩みが伝わってくるようでした。ご依頼主とお聴きいただいた皆様に心から感謝します。
この街の、この国のケアする人たちを元気にしたい、一人ひとりの心を結んでゆきたい。
皆様と一緒に考え続けたい大切なテーマです。